第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。日本軍の敗戦が色濃くなった中、田村一等兵は結核を患い、部隊を追い出されて野戦病院行きを余儀なくされる。しかし負傷兵だらけで食料も困窮している最中、少ない食料しか持ち合わせていない田村は早々に追い出され、ふたたび戻った部隊からも入隊を拒否される。そしてはてしない原野を彷徨うことになるのだった。空腹と孤独、そして容赦なく照りつける太陽の熱さと戦いながら、田村が見たものは…。
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製作国:日本
初公開年月:2015/7/25
監督:塚本晋也
製作:塚本晋也
原作:大岡昇平『野火』(新潮文庫)
脚本:塚本晋也
撮影:塚本晋也、林啓史
編集:塚本晋也
音楽:石川忠
サウンドエフェクト:北田雅也
助監督:林啓史
サウンドミックス:北田雅也
出演:塚本晋也(田村一等兵)、リリー・フランキー(安田)、中村達也(伍長)、森優作(永松)
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大岡昇平による戦争文学の傑作を「鉄男」「六月の蛇」の塚本晋也監督が執念で映画化した衝撃の問題作。凄惨を極めた太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、一人の敗残兵が極度の飢えに襲われた中で体験する戦場の狂気とその地獄絵図を通して、人間の尊厳をめぐる問いと戦争の本質に迫っていく。主人公は塚本監督自らが演じ、その他のキャストにはリリー・フランキー、中村達也、森優作。
★予告★
先に。今回はもしかしたら気持ち悪い記事かも。
話も絵面もグロいっすよ。でも空や自然の美しさもとびっきり。
塚本監督作品は強烈にアクが強いのですが視点がどこか淡白で、わたしには品が良く感じます。
登場人物の中では永松の人物像が興味深かった。
孤独は嫌だから安田と行動を共にし、安田に尽くす。そこに強い信念も教育も無くおそらくはどうしようも無い状況における思考停止ゆえ。永松は最初はイモのために田村を殺そうとしたが、後には田村にも優しく、最後には自分以外には残酷で無神経な面が溢れだす。目の前の強い者や身内しか目に入らず、罪悪感が乏しい。本質は実に身勝手。人として見下げ果てるしかない安田よりも醜悪に思えた。それは人肉食行為の是非とは違う、空虚さの果ての醜悪さだ。演じた森優作の幼く無垢な容姿やあまり達者では無い演技が功を奏していて、おそらく演じている本人が思っている以上に面白い人物になったと思う。
殺したから酷い、食べたから酷い、利己的だから酷い、殺さないから偉い、食べないから偉い、利他的だから偉い、そういう単純な物差しで図れるものではない。
人間が極限状態に追い込まれ、生存本能に逆らえずに死ぬことが出来ない。それがどれほど過酷なことか、人間としての尊厳とは何か、その状況に陥ってさえも尊厳を保つべきなのかどうなのか、極限状態で己の尊厳を捨てずにいることが後の自分にどう影響してくるか、日常に戻ってから健全な精神を保てるのか。
ところで、人肉食を受け入れるならば食糧には困らない。
一体あれば相当長持ちしそうだが熱帯の中では腐敗も早い。皆で分け合うほうが理に適っている。日持ちはどのくらいかを考えそこから逆算して一体あたり何人が適切か、さらに何人が何日生きるために何日ペースで何体必要になるかを考えるようになるだろう。しかしそうそう都合良くフレッシュな食糧が手に入るとは限らない。そうすると徐々に食糧にすべき頃合いの判断基準が下がってくるような気がするし、そうなると次は自分かもしれない、弱ったら順番が回ってくると恐ろしくなるだろう。
湧いている虫と新鮮な人体とどっちがマシか考えると悩みませんか?悩める程度の差、と言うか。
決断には宗教観が激しく影響するような気がする。日本人はそのあたりのハードルが低いかもしれないなあとか思う。個人的には、極限状態に陥って人の死体を食べてしまった人がいたとして、責める気もしないし嫌悪感が湧くとも思えないです。わたしの場合は。仕方無いとしか思えないし、それで生き延びたなら本心から良かった良かったと思うような気がする。
本当にはやってないのに自分はニューギニアで人を食ったと言う伍長と、食糧にするために人を殺して猿の肉だと言う永松と、猿の肉だと話を合わせているが実は人肉だと知っている安田。全員が嘘をついている。これは実は三人とも人肉食に対して理解を示す立場であると思う。ただタブーであり倫理に反するから露悪的な嘘をついたり、大人の態度としてやってないことにしておくのだろう。その場所が極限状態の戦場という異常な空間であるにも関わらず、平和な社会を営む上で必要な倫理感を適用するのは立派と言えるのかどうか。
愛する人と別れたくないからとかまだ死にたくないからとかで戦争は嫌だという理由とは違う。あんな地獄は嫌だ。絶対に嫌だ。そう思わせる世界が描かれている映画である。
それなりに耐性無いとキツいかもとは思うので、興味ある方は頑張って観てください。
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