帰り続けるだけは寄り道

映画やミステリー小説の感想などをたまにつらつらと。 過去の記事はマイカテゴリの「INDEX」に作品別、作家別でまとめています。 いただいたコメント、トラックバックは確認後の表示になります。

歌野晶午

歌野晶午『長い家の殺人』 日に日に募るあの野良犬の影

消失死体がまた元に戻る!? 完璧の「密室」と「アリバイ」のもとで発生する、学生バンド“メイプル・リーフ”殺人劇ーー。「ミステリー史上に残ってしかるべき大胆なアイデア、ミステリーの原点」と島田荘司氏が激賛。この恐るべき謎を、あなたは解けるか? 大型新人として注目を浴びた鮮烈なデビュー作。

 

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歌野晶午のデビュー作「長い家の殺人」(講談社文庫)を読みました。

 

新装版 長い家の殺人 (講談社文庫)
新装版 長い家の殺人 (講談社文庫)

 

 

これ悪くないですよ。

勢いがあるし面白いです。

まぁ戸越伸夫が作った曲の歌詞は、、、いきなり吹きますけど。

あの歌詞が仕方ないのはわかってます。わかってますけども!

 

印象的すぎて私も何か楽器が弾けたら試しに弾き語ってみたいと思いました。

どんな曲なんだろう。その前に、ちゃんと曲になってるのかな?

もしかしてDTMの人とかで演ってる人がいたりして、、、と思ってググってみたところ、当然のことながら見つかりませんでした。残念です。

 

それにしても信濃譲二の俺様っぷりがいいですねー。良い存在感。

「家」シリーズのワトソン君は市之瀬徹ですが、譲二に対しては探偵役として絶対的な信頼を寄せているものの、だからといって人間的に尊敬できる人物とは思っていなくて、それどころか迷惑な奴だくらいに思っている。

そういう冷静なツッコミ目線で短所が描かれているからこそ、読者には譲二が愛すべき人物に感じられるんだろうなー、と思いました。

 

この作品(というか「家」シリーズ三作)は端正さやトリックの完成度としては稚拙と言われてしまうのかもしれませんが、そんなのは瑣末な問題。

次はどんなの書いてくれるんだろうとワクワクしてしまいます。

歌野晶午にはいつまでもミステリー作家でいて欲しいものです。

 

 

てか島田荘司のあとがきの「薦」が良すぎる。いい話だ。

 

リレー短編集『9の扉』 お薦めできる本

「猫」が「コウモリ」を呼び、「コウモリ」が「芸人」を呼ぶ!? たった一言のキーワードが次の物語へと引き継がれ、思いがけない展開を呼ぶこのリレー短編集には、冒険心と遊び心がいっぱい。

個性豊かな凄腕ミステリ作家たちが勢ぞろいしたこの本には、最高に愉快な体験がつまっています。豪華執筆人によるチーム力もまた絶妙。

「あとがき」までリレー形式にこだわった欲張りな一冊が出来上がりました。

収録:『くしゅん』北村薫→『まよい猫』法月綸太郎→『キラキラコウモリ』殊能将之→『ブラックジョーク』鳥飼否宇→『バッド・テイスト』麻耶雄嵩→『依存のお茶会』竹本健治→『帳尻』貫井徳郎→『母ちゃん、おれだよ、おれおれ』歌野晶午→『さくら日和』辻村深月。

 

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北村薫のアイデアから生まれたリレー短編集「9の扉」(マガジンハウス)を読みました。

 

9の扉 リレー短編集
9の扉 リレー短編集

 

 

マガジンハウスの「ウフ.」(既に廃刊)連載中にも読んでいましたが、こうやって一冊になると読後感が全然違いますね。

連載中はワクワクしながらも、どちらかというと個人的に好きな作家がリレーで執筆していることがうれしかったような気がします。

好みの作家ばかりなもので。。

でも続けて読むとめっちゃ良いんですよ。

 

軽く優しい作品の北村薫で始まり、続いて法月綸太郎でミステリー仕立てになりつつも、ここまではまだほのぼのとしています。

それが次の殊能将之の「キラキラコウモリ」でややブラックな色調が強くなり、そこから先はネタや登場人物が一人歩きして、他の作品まで出張してしまったり。

読みながらニヤニヤしてしまう展開になっていきます。

最後は辻村深月がちょっとあったかい感じにまとめてくれて、素敵な一冊になっちゃいました。

 

全て独立した短編ですが、それぞれひっそりと絡んでいて粋ですね。

各作家の余裕のお遊びに呑まれる快感。みたいな。言いすぎ?

でも面白かったです。「あとがき」まで楽しめます。

 

私にしては珍しく普通にお薦めできる一冊なのです。

 

歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』 ゲームはまだ続く?

<頭狂人><044APD><aXe><ザンギャ君><伴道全教授>。奇妙すぎるニックネームの5人が、日夜チャット上で「とびきりのトリック」を出題しあう推理合戦!ただし、このゲームが特殊なのは各々の参加者がトリックを披露するため、殺人を実行するということ。究極の推理ゲームが行き着く衝撃の結末とは!?

 

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歌野晶午の「密室殺人ゲーム2.0」(講談社ノベルス)を読みました。

 

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

 

密室殺人ゲーム王手飛車取り」の続編です。

一応は「2.0」単品でも面白いとは思いますが、未読の方は先に「密室殺人ゲーム王手飛車取り」を読まれることを、猛烈にお薦めします。

 

前作を読んだ人には作品紹介文の時点で「ん??」なわけで、そしてハタと気が付きます。

もう始まってる・・・。

「2.0」の仕掛けの面白さは、問題として出されているトリックだけじゃなくてですね、、、心憎いったらないっす。

前作のネタ、そして某ソリッドシチュエーションスリラー映画からのネタ、楽しく比較できました。

もちろん今回もQのタイトルにニヤニヤしました。

 

前作もそうでしたが、問題~推理~解答の繰り返しなので、息継ぎ出来ていいんですよね。

とか言いつつ、明らかにされるより先に正解にたどり着きたくて、勝手に一人で脳内格闘して疲れるんですけどね。

そしたら推理は彼らに任せて、その掛け合いを楽しむと。

 

歌野晶午は小説の中で、ミステリーについて、インターネットについて、コミュニケーションについて、社会について、親子関係について、学校教育について等々、饒舌に捲くし立てますよね。ご本人もあの文体みたいに饒舌家なんでしょうか。

本のまんまの勢いで話されたら怖いような気もしますが、しゃべってる姿を見てみたい気もします。

 

ぜひシリーズ第三弾もお願いします!

 

 

 

以下、メモ。

 

 

* * * * * *

Q1 次は誰が殺しますか?

開催日 11月30日

出題者? 阪本純人

・阪本純人が犯した女子大生殺人の真相解明

・阪本は取調べで殺人の動機を「ゲーム」と答え、謎の数字を記している。

・ザンギャ君遅刻のため、場つなぎに伴道全教授が脱力系癒し系「密室への侵入方法は?」を出題。

 

Q2 密室などない

開催日 12月22日

出題者 伴道全教授&頭狂人

・伴道全教授の脱力系癒し系問題の解答。

・伴道全教授の脱力系癒し系ネタを頭狂人がリメイクして出題。

 

Q3 切り裂きジャック三十分の孤独

開催日 12月30日~

出題者 ザンギャ君

・密室バラバラ殺人の犯人は、殺害後どうして外に出られたのか

・発見現場は被害者が所有している小さな雑居ビルの一室。

・内開きの扉は切断された両足がドアストッパーになっており、簡単には開かない状態。第一発見者である被害者の娘が強引に押し開いた。

・12月28日に開催予定だったが、ザンギャ君の都合により変更。

 

Q4 相当な悪魔

開催日 1月27日~

出題者 頭狂人

・予告殺人のアリバイ崩し

・被害者の女子大生・藤谷流花は殺されるとき大阪にいた。

・回答者4人とのチャットによるアリバイ証明をしているため、犯人である頭狂人がその時間に大阪で殺人を犯すことは、通常出来ない。

 

Q5 三つの閂

開催日 3月9日

出題者 aXe

・雪密室はどうやって作られたか

・山林の一部がぽっかり四角く開いていて、そこは元々、資材置き場だったが、今は粗大ゴミの違法投棄場となっている。

・死体は電話ボックス大の箱に入れられ、粗大ゴミにあふれたその穴の中央手前に置かれている。

・ゴミの山には雪が積もっており、足跡は無い。

 

Q6 密室よ、さらば

開催日 4月8日~

出題者 044APD

・予告殺人。密室の謎を解け

・犯行計画:被害者は間宮駿(元病院勤務、現在無職)。殺害日は4月1日。殺害方法は刺殺。現場は仙台市青葉区支倉町のシーザースパレス703号室。

・4月2日、シーザーパレス703号室にて、看護師の中里雪と間宮駿の死体が発見される。

・出題者の044APDに負け続けている4人が、挽回を掛けて共同戦線を張る。

 

Q? そして扉が開かれた

発言日 5月5日 

* * * * * *

 

歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』 2.0の前に読むべき

<頭狂人><044APD><aXe><ザンギャ君><伴道全教授>。奇妙なニックネームをもつ5人がインターネット上で殺人推理ゲームの出題をしあっている。密室、アリバイ崩し、ダイイングメッセージ、犯人当てなどなど。ただし、ここで語られる殺人はすべて、現実に発生していた。出題者の手で実行ずみなのである……。

 

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歌野晶午の「密室殺人ゲーム王手飛車取り」(講談社ノベルス)を読みました。

 

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)

 

てか「密室殺人ゲーム2.0」のための、おさらい&メモです。

 

殺人をゲームとして楽しんでるなんて話は、倫理観的な嫌悪よりも、特別な存在の俺・・・みたいなうっとうしいナルシスト臭がプンプンしてるんじゃないかと不安を抱くも、杞憂。

小ネタ品評会的な作品と侮るなかれ。

友達と順番に怖い話をした時のような、そんな子供の頃の夏の夜。って感じでワクワクできます。

そしてやっぱり人物が上手いなー。好みの問題かもしれませんが。

 

 

以下、メモ。

 

* * * * * *

Q1 次は誰を殺しますか?

開催日 2005年6月27日~

出題者 aXe

・シリアルキラーが次に狙うのは誰?

・出題者以外の4人から、ミッシングリンクの正解が出るまで殺人は続く。

・第一の被害者はディズニーランド好きの短大生、松尾あづみ。19歳、O型。

 

Q2 推理ゲームの夜は更けて

開催日 2006年2月24日

出題者 伴道全教授

・トラベルミステリーのアリバイ崩し【ボツネタ】

・伴道全教授が多忙のため、実行はしていない。仮想問題として出題。

・開催日にザンギャ君1時間遅刻のため21時から開始。044APDは20時30分に退席のため、問題には不参加。

・被害者はJR東日本の特急草津5号車内で終点の万座・鹿沢口駅で発見されるが、犯人は同時刻に特急水上5号の車中にいた。

 

Q3 生首に聞いてみる?

開催日 2006年3月3日~

出題者 ザンギャ君

・バラバラ殺人の遺体をどうやって運搬したのか

・殺害後、頭部を切断。胴体は児童公園で発見され、頭部は被害者の自宅で発見。

・被害者の自宅前では道路工事が行われていたが、胴体が運び出されたことに誰も気付いていなかった。

・3月10日の開催時、ノートPCバッテリー切れのため、044APDは途中で退席。

 

Q4 ホーチミン―浜名湖五千キロの壁

開催日 2006年4月8日

出題者 伴道全教授

・トラベルミステリーのアリバイ崩し【海外編】

・犯人の伴道全教授は日本時間の2006年4月3日午後11時にベトナムにいた。

・被害者は4月4日午前10時に東名高速道路上り線浜名湖サービスエリアの車中で死体で発見。

・4月3日午後11時にベトナムにいた伴道全教授が、4月4日午前10時までに浜名湖サービスエリアに行ける飛行機の便は無い。

 

Q5 求道者の密室

開催日 2006年4月9日~

出題者 044APD

・犯人はいかにして二重の密室を破ったか

・4月9日午前6時半頃、寝室で寝ている夫を起こそうとした妻が、殺害されている夫を発見。

・事件現場は万全のセキュリティを誇る新興住宅地に建つ一戸。

・出題者の044APDに負け続けている4人が、挽回を掛けて共同戦線を張る。

 

Q6 究極の犯人当てはこのあとすぐ!

開催日 2006年4月28日

出題者 伴道全教授、aXe

・お風呂場殺人事件【小ネタ×2】

・044APDが来ないため、暇つぶしに伴道全教授がボツネタを披露。

・伴道全教授のボツネタをaXeがアレンジして出題。

 

Q7 密室でなく、アリバイでもなく

開催日 2006年4月29日~

出題者 頭狂人

・密室殺人のトリックを解明すべし。

・4月24日午後5時42分。オートロックマンションの自宅に帰宅した大学生の妹が、トイレに兄が倒れているのを発見し、119番通報。

・死亡推定時刻は同日午後2時~3時。

 

Q8 誰が彼女を殺し(救え)ますか?

開催日 2006年6月24日

・ドッキリ系ゲームのハードボイルド的探偵ごっこ

* * * * * *

 

歌野晶午『絶望ノート』 子供は判ってくれない

いじめに遭っている中学2年の大刀川照音は、その苦しみ、両親への不満を「絶望ノート」と名づけた日記帳に書き連ねていた。そんな彼はある日、校庭で人間の頭部大の石を見つけて持ち帰り、それを自分にとっての“神”だと信じた。神の名はオイネプギプト。エスカレートするいじめに耐えきれず、彼は自らの血をもって祈りを捧げ、いじめグループ中心人物の殺人を神に依頼した。「オイネプギプト様、是永雄一郎を殺してください」―はたして是永はあっけなく死んだ。しかし、いじめはなお収まらない。照音は次々に名前を日記帳に書きつけ神に祈り、そして級友は死んでいった。不審に思った警察は両親と照音本人を取り調べるが、さらに殺人は続く―。

 

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歌野晶午の「絶望ノート」(幻冬舎)を読みました。

 

絶望ノート

 

面白いかつまらないかで言うと面白い。好きか嫌いかで言うとかなり好き。お薦めです。

が、これまた好みが分かれそうでアレですけどね。

息苦しくなるほど自虐が延々と続きます。少年の感情はねじれにねじれています。

自虐とは攻撃ですよ。

受け付け易いタイプのストーリーや文体では無いとは思いますが、出来れば最後まで読んで欲しいところです。

 

歌野晶午はユニークというか皮肉な人物描写が上手いですよね。

今回はジョン・レノンのファンである照音の父親、トヨヒコがいいですね。

定職に就かず、単純で楽天的で身勝手な父親。妻の名は瑤子。息子にはショーンと名付け、姓は大刀川(たちかわ)なものだから照音のあだ名は常にタチション。

とにかくいちいちジョン・レノンです。瑤子は勤め先の社長にまで、夫を普通にジョンと呼ばれてしまいます。

傍目には愛すべき人物と見えないこともありませんが、家族にとっては一生に関わる迷惑な存在です。

特に息子である照音が語ると、トヨヒコの迷惑っぷりはさらに哀しく光り輝きます。

登場人物でいうと、照音の同級生、孤高の大迫さんもいいな。

大迫さんの部屋に何のポスターが貼られているのか気になって仕方ありません。

反対にムカムカする登場人物といえば担任の久能先生ですが、ヴィジュアル系っぽい見た目なのかな?そう思うと最悪さが増していいです。

 

 

それにしても最近はアンファンテリブル系が目立ちますね。いつからこんなに増えたんだろうか。

 

そうそう。カバー外した本体の装丁もいいですよ。

 

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