国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。

父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。

〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。

だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた・・・。

 

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飴村行の「粘膜蜥蜴」(角川ホラー文庫)を読みました。

 

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

 

-第壱章「屍体童子」

主人公は12歳の少年達、真樹夫。同級生の大吉とともに訪れた雪麻呂の屋敷で起きた気持ちの悪い出来事の話。

-第弐章「蜥蜴地獄」

主人公は軍人である真樹夫の兄・美樹夫。フランスの植民地ナムールで、二名の部下と共に貿易商の間宮をチャランまで護衛する道中の気持ち悪い話。

-第参章「童帝戦慄」

主人公は月ノ森雪麻呂。月ノ森家の気持ち悪い話。

 

ひと言で言うと気持ち悪い物語。そして面白い。

 

爬虫人と呼ばれるヘルビノが気持ち悪い。

頭部は人間と同じ形だが、額の中程から顔面が20センチほど突出し、ミカン大の眼球は顔の右と左に離れて付いている。黒目は縦一本の黒線で白目は薄黄色。鼻梁は無く、上唇の上に二つの穴が開いている。耳も鼻同様に顔の左右に小さい穴が開いてるだけ。体毛は無い。

 

ナムールの密林に棲む肉食ミミズのノムリアとゼムリア、巨大ゴキブリのランニエも気持ち悪い。

こうして書くのも気持ち悪い。なら書くな。いや書く。

 

しかし、一番気持ち悪いのは月ノ森家の人々だ。

死体保管所の番人・徳一。特別病棟に収容されている熊田一等兵。そして雪麻呂と父・大蔵。

雪麻呂の下男である爬虫人の富蔵も気持ち悪い。はずなんだけど、とぼけた魅力があって、富蔵だけはだんだんかわいく思えてくる。最後はあまりかわいくなくなってしまうけど。

 

あ。大事な人を忘れてた。第弐章に登場する貿易商の間宮。気持ち悪いというよりはこの人は恐ろしい。

 

 

教訓も無く、訴えたいテーマも見当たらず。それが良い。

かように気持ち悪い作品にもかかわらず、案外ドライにひぇ~うぎゃ~と楽しめる。

 

ただ、富蔵の夢や面白さ的に見て、オチはちょっと不自然に感じた。

そこを重視するような作品では無いと思うけど、だったら違った結末でも良かったはずで、でもあのオチにしないことにはそれまでのあれこれがおかしくなるから仕方無い。

でもやっぱりオチが残念ではあった。

 

前作の「粘膜人間」、次作の「粘膜兄弟」もそのうち読もう。そのうち。